Anytion

いつかだれかの役に立つかもしれないお話

顔面神経麻痺から劇的に回復した話

f:id:anytion:20210812184231j:plain

ある日突然、顔の右側半分が動かなくなりました。

痛みはなく、かゆみもなく、熱もありません。体調に変化はなく、食欲もあります。ただ右目、右眉、口角、鼻の穴、顔の右半分全てが動かない。顔面神経麻痺(ベル麻痺)は顔の半分が動かなくなる病気です。

これは顔面神経麻痺になってから、完全に回復するまでの記録です。

 

 

なんか変?

発症前々日

この日、食事をしたときに舌先に違和感を感じた。感覚を凝らしてみると、食べ物の味が変。ほとんど味がせず、あえて言うならやや苦い。舌先以外の部分はいつも通りの味を感じるので、火傷か歯ブラシで傷つけたかな?と思った。ほんのわずかな違和感だったため、これがこの日だけだったか、翌日も続いたのかは覚えていない。

 

発症前日

就寝前に顔全体がこっているような違和感があった。手のひらで顔全体を揉むようにマッサージをした。

 

1日目(発症)

朝起きたら、顔の「左側」全体に違和感があった。顔のパーツがぎゅっと中央に寄る感じ。力を抜くと目を閉じてしまう。ものもらいでもできるのだろうか、と思ったものの、いつも通り出勤した。

昼食時、普通に食事をしていたが、「話しながら食べる」ということがやりにくいと気づく。鼻の下(唇の上部分)が強張っている感じ。無言なら普通に食べることはできるし、ペットボトルの水も飲める。ただ、ときおり「ちゅっ」という音を立ててしまい、我ながらマナーが悪いなぁと思った。食後、トイレで鏡を見て、これは左側に力が入っているのではなく、右側に力が入らないのだと気づいた。ネットで調べると、すぐにベル麻痺が出た。症状に味覚障害の記載もあり、あれが前兆だったのかもしれないと思う。

夕方にかけて、異様に右目が渇く。トイレで鏡を見ると、右目だけまばたきができていない。口角も少ししか持ちあがらない。眉の高さが左右で違う。ベル麻痺はとにかく早期治療が重要だとネットに書いていた。幸いその日は定時で帰れたので、そのまま最寄りの医者へ立ち寄った。ちなみにベル麻痺の科は耳鼻科になる。

医者ではベル麻痺だと診断された。「女性だし、顔に後遺症を残したくないと思うので、とにかく早めに入院するように」と大きな病院の紹介状を渡される。「入院したら治るんですか」と聞くと、「重症なので治る保証はできない」と言われる。治らないなら何のために入院するのかと思ったが、何度聞いても答えは「早めに入院した方がいい。でも完治は難しい」だった。

 帰宅して、症状が思っていたよりひどいことに気づく。夕飯が口の端から溢れそうになる。ペットボトルの水も飲めない。鏡の前でうーとか、いーとかやってみるが、右半分が全然動いておらず、特に破顔すると口が全部左側に寄るのですごく怖い顔になる。少し様子を見ようかと思っていたが、日常生活に支障があるので、翌日紹介された病院へ行くことにした。

 

治療開始!

2日目

朝イチで紹介された病院へ。

聴力、鼓膜、血液検査を行い、その全てで絶賛の評価をもらう。嬉しいけど複雑な気分。昼食を食べる時間をもらったが、口の端から溢れるのでものすごく時間をかけた。でも、唐揚げ定食はうまい。

昼食が終わって診察室に入ると、やはりベル麻痺ということで入院をおすすめされる。ここでも「治りますか?」と聞いた。答えは「多分治らない」。ネットで調べたら治らない人もいるとあったが、ここまで断言されるとは思わなかった。ベル麻痺は症状の重さを40点満点で評価し、点数が低いほど治る可能性は低くなる。診断結果は0点。もう全く動いていないとのこと。昨日までわずかに動いていた口の端ももう動いていなかった。入院するか通院するかと問われたが、無駄かもしれないけれどやれるだけやろうと思い、入院を選択した。

無表情の状態なら、まださほど違和感のない顔をしてるのが救いだった。夜、スマホを開いてると半年前に参加したイベントの動画に行き着いた。人生初のコスプレをして、スタッフと一緒に満面の笑顔で写真を撮った。この状態が治らないなら、もうあんなふうに写真に写ることもできないのだろうなと思う。すごく悲しくて涙が溢れた。同時に躊躇いがあったものの、あのときコスプレを決断した自分をグッジョブと褒め称えたい。

 

3日目

起床後、鏡を見るが顔に変化はなし。目は閉じない、口は動かない、眉も下がったまま。いやむしろ悪化していないことを喜ぶべきか…。

今日からホットパックとマッサージをするよう言われた。あまりマッサージすると重い後遺症が残るらしいので、加減が難しい(そもそも治るかはわからないが)。食事や飲み物は驚くほど自然な動作で口にできるようになった。ただ、自分が今の状態に適応しただけではあるが、これだけでもまた外食ができるかもしれないと思うと少し嬉しい。まぶたが少し閉じるようになった気がしたけれど、周りの反応を見る限りでは気のせいのようだ。 

 

4日目

起床後、顔に変化はなし。いや、右目が少し霞んでいる。昨夜は爆睡したので、まばたきできない右目が乾き気味なのかもしれない。予想通り目はすぐに治った。

ホットパックを10分当てた後、首筋に当ててみることにした。私の首のコリは尋常じゃないはず。血流がよくなればもしかして…?と思った。特に変化はないけど、気持ちいいし、このまま続けてみようと思う。

夕方、自分の顔を見てみる。まだピクリとも動かない。ただ、舌で唇を舐められるようになった。スキルが上達したのか、目には見えない程度で改善したのかはわからないが、できることが増えると嬉しい。

 

6日目

顔の動きに変化はなし。昨日、点滴を3回失敗されたため留置針になった。今日は針を刺さなくてよかったので嬉しい。

何となく顔に筋肉痛みたいな感覚がある。でも気のせいにも思えるレベル。先生とすれ違ったので聞いてみたが、マッサージで腫れたりするけど気にしなくてよいとのことなので、しばらく様子を見ようと思う。

夜に鏡を見て、アイウエオとやってみた。発症時は普通に見えていたエの表情が歪んでいる。筋力のある左に引っ張られた感じ。悪化ではないのかもしれないけれど、それでもマイナスの事実を発見して凹んだ。その様子を見てた看護士さんが声をかけてくれた。「治療頑張りますね」と言うと「あなたはもう頑張ってるよ。頑張ってる」と返ってきた。その瞬間、涙が溢れた。自覚なかったけれど、気を張り詰めていたのかもしれない。

 

7日目

顔は変化なし。左を頑張って使ってるせいか、顔のパーツが左に寄りになってる気がする。また右頰が筋肉痛のように痛い。マッサージは控えめにしてみた。目の下が時折ピクピクする気がするが、気のせいかもという程度なので、もう少し様子を見ようと思う。

加えて、朝から診断書の件、休暇申請の件、母親からの電話で精神的にどっと疲れた。軽くめまいがする。今日は横になって休もうと思う。

 

9日目

ときどきむくみが気になる。薬の副作用なのか、単なる運動不足なのか。看護士さんがチェックしてくれたけど、問題ないレベルのようなのでしばらく様子を見る。

顔に変化は見られない。ただストローで飲み物を飲みやすくなった気がする。そして味覚も戻ってきた気がする(気がする程度だけど)。検査は明日。よい結果が出るといいな。

 

改善してきた

10日目

顔の見た目は変化なし。右目の目薬の浸透する感覚が変わった気がする。発症時は何の抵抗もなく、眼球の裏側まで流れていたが、今は左目と同様、パチパチしないと循環しない感じ。

予定していた検査をした。神経の生き残りは18%、点数は4〜6点。外科手術するほと悪くはないがよくもない。半年後に36点くらいまで回復する人が9割とのこと。ただし、ステロイド治療をもう1クール続けた方がよいらしい。悩んだが治療は続けることにした。

 

12日目

口の端が動いた!口角が少し痙攣する程度だけれどすごく嬉しい!

あと入院当初から気になっていた、口の周りと胸元の蕁麻疹みたいなものは、ステロイドの副作用とのこと。蕁麻疹くらいどんとこい!!と思ってたら、夜の寝つきも悪かった。今日からまたステロイドが最大量になったからかな?最終的には眠れたのでよしとしよう。

 

13日目

眉が少し上がるようになった。口角も少しずつ動きが増えている気がする。

食べにくさ、飲みにくさはあまり変わらないし、目が閉じないのも変わらない。でも変化があるのはとても嬉しい!

 

15日目

鼻の穴が少し動くようになった。味覚もほぼ戻った。口角も少しずつ動きが増えている気がする。食べにくさ、飲みにくさはあまり変わらない。

 

19日目

目が閉じるようになった感覚がある。左目に比べると浮いてる感はあるものの、力まなくても閉じられるようになった。第三者が見ても目をきちんと閉じれているらしい。そういえば、最近は手を添えてまばたきさせていない。

頰に空気もためれるようになった気がする。力いっぱいためると漏れるが、軽くなら漏れないときもある。胸元の蕁麻疹は数は減っていないものの、赤みが減った気がする。顔のニキビはまだまだひどい。 

 

21日目

退院の日。朝イチで主治医が顔の動きをチェックした。点数はかなりよくなっていて、20点くらいとのこと。反応を見るに相当よい回復傾向みたい。

帰宅して、散髪+ラーメン+食料の買い出しをして、後は部屋で音楽を聞いたりネットサーフィンしたり。あんまり動いてないけれど、それでも夕方には眠くなった。

 

退院後

36日目

第1回通院日。

いつもの眉の上下、鼻の開閉、目の開閉、口の形のチェックをした。聴覚もいつの間にか治っていた。めちゃくちゃ力を入れない程度なら、右頰にも空気がためられる。ウィンクはまだできない。左頰にはあまり空気をためられない。主治医によると100点満点で80点くらい回復しているとのこと。

自分で見ても、右目が開き気味なこと以外は特に気にならない。ただ顔と胸の肌荒れは相変わらずひどい。

 

41日目

右目でほんの少しウィンクができた。左目は薄目状態だが、回復の兆しには変わりない。ただマッサージすると筋肉痛のような痛みがあるのが気になる。優しくマッサージをした。

胸の肌荒れはひいてきた気がする。ただ顔の肌荒れがひどいので、洗顔とメイク落としを毛穴洗浄系に変えた。

 

46日目

寝る前、右目の下まぶたがピクピクした。見た目特に変化はないけれど、改善の兆しだろうか。アイウエオと口を動かすと、ウのときに少し隙間が残っているが、他の音は見た目の違和感はなかった。

 

49日目

産業医面談の日。

いつもの加重労働のチェックに加え、顔面神経麻痺の話もした。目の開き具合が若干違うものの、見た目ほぼ違和感ないとのこと。

本来スタートが0点なら、それがほぼ予後を示す値にもなり、機能不全が残る人が多い。また回復も年単位を要するのが普通だという。今回の症例は非常に稀な例だとのこと。不幸中の幸いとはこのことかもしれない。

頰に空気をためてみたら、左右どちらも力いっぱいためることができた。ただ若干左には溜めにくい。胸の赤みはかなりひいた。顔の荒れ具合も気持ち改善傾向にある気がする。

 

51日目

目の下がピクピクする。

 

66日目

第2回通院日。

点数は40点満点中38点、治癒と言えるとのこと。この日をもって通院は終了した。あとは薬があるだけ飲んで終わり。

 

以上、顔面神経麻痺から劇的に回復した話でした!

日記には書いてませんが、他にも右耳は音が大きく聞こえるなど、聴覚障害も出ていました。頭を洗うときにシャワーが耳に当たると、異様に大きな音に聞こえてるので、耳に水流を当てないようにする必要がありました。

この病気はストレスが原因とも言われているので、入院中は薬の副作用や後遺症など、悪い情報をネットサーフィンしないように意識しました。なってしまったものは仕方ない!残業漬けの毎日だったのだから、たまの休暇だと思ってゆっくりしよう、とポジティブに考えたのがよかったのかもしれません。外科手術に頼るかどうか、というラインでしたが、驚異的な速度で回復することができました。

この病気はある日突然、何の前触れもなく発症します。顔の片側が動かない、動かしづらいなと思ったら、すぐに耳鼻科へ行ってください。そしてどんなに状態が悪くても、決して悲観的にならず、そのときできる治療を全力でやってください。

この話が同じ病気を発症した方の助けになれば幸いです。